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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
不正乗車をしているのは貴方です。私は車掌として事務をとっただけじゃないですか。ひとこと罵倒でもしましたか。じき手続をして上げますと云っただけじゃありませんか」
言葉にもつまるという激昂で、車掌は青年士官を睨まえた。士官の方も、もう一ヵ月前ならばと文字に読まれる形相で睨み上げている。その面上につばきするように車掌が云い捨てた。
「あなたのようなのが軍人だから、日本は潰れたんだ!」
ひろ子は、どちらの顔も見ていられなかった。
その若い士官の前には、襟章をもいだ制服の陸軍将校がかけていた。となりには、東北のどこかの大きい軍需会社が解散して、東京へ還る途中らしい国防服だが、重役風の男がいる。ひろ子の真前にいるのも陸軍の古参将校で、制服の襟章がはぎとられている。
騒動がしずまって見渡した車室は、網棚から通路から座席の間まで詰めに詰めた大荷物で、乗っているのは男ばかりであった。何かの角度で、軍と関係があったと見える風体の男ばかりであった。女と云えば、ひろ子のほかには子供づれの細君が一人乗り合わしているきりである。
東北の自然の間を、列車は東京に向って進行した。