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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

重吉は、どっさりの条件と保留と仮定とをつけ足して、万ガ一、外で療養でも出来るようになったらばと面会に来たひろ子に云った。

「いろいろ、買いものなんかもして置くがいいよ」

どんなに重吉が、慎重をきわめた保留をつけて語ったにしろ、この一言は、ひろ子を幾晩も眠らせなかった。ひろ子には、簡単らしくそう云ったときの重吉の上体が、面会窓からぐっとはみ出して、大きく大きくなったように映った。そして、その感銘はひろ子にとって殆ど肉体的な訴えであった。

ひろ子の期待と緊張とが支えにくいほどになったとき、重吉は、あっさり、話が不調に終ったことを告げた。

「どうも変だと思ったんだ」

そう云って笑った。

「これまでのやりかたから見て、わかりがよすぎるようなところがあったからね。――ひろ子は心配しないでいい」

今度も、理由は前と同じであった。重吉の思想の立場が変らないから、と。

入院させないと云った時よりも、重吉に対するこの二度目のむごたらしさを、ひろ子は性根にしみて受けとった。重吉のおかれている条件の中で、自然の生活力とそれを保つ心の均衡で死ぬる病から恢復したとき、その恢復期の五月という季節に、七年の間重吉の青春を閉じこめて来た牢獄の窓が、さも開きそうに、さも、もうちょいとのことで開きそうに、身ぶりして見せるとは、何たる卑劣だろう。