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そうしゅ
操守
豊島 与志雄
「改造」1929(昭和4)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,418 字 · 20 页
」
彼の言葉を押っ被せると、彼女は我知らず涙ぐんでいた。その下から、彼は云い張っていた。
「いやだ、何もかも云ってしまわないうちは、いやだ。……。あんな女……のこと、僕は何とも思ってやしない。あんな女……いや、それよりか、君だって、君をだって、僕は愛してるかどうか、自分にも分らない。……ただ、泥の中から、救われたかったんだ。そして君に逢うと、僕の気持は、晴ればれとしてきた、明るくなった。それを、どう云って感謝していいか、分らない。ただ、有難い。僕を救ってくれ。僕は君を愛してやしないかも知れない。君も、僕を愛してやしないだろう。それでもいい。ただ、すがすがしい気持になれば。その外のことは、許してくれ……。」
胸の中に熱いものがたまってくるのを、吉乃は押えつけた。商売が立前なんだ。何かが壊るれば、凡てが崩れ落ちそうだった。そんな脆いんじゃないと思っても、不安だった。無意識的に踏みしめてきた商売の道、それが、岡野との関係で、はっきりしかけてきた今となって……。
彼女の眼付は、いつになく厳粛になった。そして彼女は酒を飲んだ。敵意的に飲んだ。岡野が泣き出しそうな顔をしているのが、おかしかった。