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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

女中が居ります。どうぞお引取り下さい。それに第一あなたには、お篠さんと云う立派な方があるじゃございませんか」

「お篠なんか問題じゃないのです。あんな無教育な分らない奴なんか明日にも追出して終います。奥さん、どうぞ叶えると返辞をして下さい」

「浅田さん――」

「この通りです、奥さん」

浅田は畳に額をすりつけん許りに両手をついて頭を下げた。

「まあ、そんな事をなすっては困ります」

「私はあなたに拒絶されては生きていられないのです」

浅田は泣き声を出した。

「ねえ、奥さん、一生の願いです」

「それは無理と云うものです」

「そんな事を仰有らないで――」

「もうどうぞお帰り下さい」

静子は思わずきっと云った。

「じゃ何ですか」

浅田は態度を改めた。

「之ほど云っても私の望みを聞いて呉れないのですか」

「致し方ございません」

「奥さん、よくも恥をかゝせましたね。こうなっては浅田も男です。のめ/\とは帰りません」

「――――」

静子は非常な不安に襲われて、身体を縮ませながら浅田の様子を覗った。

「もう一度よくお考え下さい」

彼は息を弾ませながら云った。

「考える余地はございません」

浅田は無言ですっくと立上った。