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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

静子はブル/\頭えながら身構えした。

浅田は猛獣が獲物に近寄るようにジリ/\と彼女に迫った。

「何をなさるのです」

静子は必死の力を振って叫んだ。

「し、失礼な事をなさると、声を揚げますよ」

然しそんな努力は反って薪に油を注ぐようなものだった。彼女がこう叫んだのをきっかけに浅田は飛びかゝった。

静子は一生懸命に身をいた。然しそれは畢竟猫に捕えられた鼠の悲しい無駄な努力だった。浅田はジリ/\と彼女を羽交締めにした。

静子は繊弱い女の身の弱い心から、殊に対手は今まで親切にして呉れた浅田ではあるし、声を挙げて女中を呼ぶ事は幾分躊躇されたので、黙って身を※(「足へん+宛」、第3水準1-92-36)いていたので、浅田はそれにつけ込んで彼女を押倒そうとした。彼女は最早忍んでいられなかった。救いを呼ぼうと思ったとたんに、遠く離れた所だったが、足音がした。

浅田ははっと彼女を抱きしめていた腕の力を抜いた。その隙に彼女は逃げ出した。浅田は直ぐに彼女を追った。格闘が始まった。襖が外れてドタンバタンと音がした。

バタ/\と誰やら駆けつけて来る音がした。

静子は必死に浅田の魔手から逃れようとする、計らずも起った格闘にドタンバタンと音がしたが、其音に駆けつけて来たのは誰ぞ、それは思いがけなくも夜叉のような形相をしたお篠だった。