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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
浅田は渡辺刑事に引立てるように促されて、渋々神楽坂署の門を出た。
留守宅ではお篠が夫が警察に留られて三日も帰って来ない所在なさを沁々味わいながら、しょんぼりとしていた。一時の腹立まぎれに警察へ追いやるような事をしたものゝ、日数が経つにつれて、お篠はやはり夫の事が思い出されるのだった。今日あたりはもう坐っても立ってもいられないので、恥も外聞も忘れて貰い下げに行こうと思っていたのだった。そこへ、ひょっくり夫が無事に帰って来たので、お篠は飛び立つ思いで夫を迎えた。
「まあ、よく帰って来られたわねえ」
「――――」
浅田は黙って不機嫌らしく彼女を睨んだ。
「怒っているの」
お篠は不安そうに、
「堪忍して頂戴、みんな私が悪いのだから。腹立まぎれに詰らない事を云っていけなかったわね」
縋りつかん許りにして訴える自分の言葉に一言も報いようとしない夫を恨めしげに見上げたお篠は、ふと初めて夫の後ろに見馴れない男がいたのを見つけた。
「まあ、誰かいるのねえ。人の悪いったらありゃしない」
お篠は腹立たしそうに、
「一体誰なの、お前さんは。又刑事なんだろう」
「そうですよ。おかみさん」