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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
尤も大勢の刑事達が網を張っているから、支倉の方でよし先に見つけて逃げ出しても、容易には逃げおおせまいが、それは第二として石子はどうしても第一番に彼を見出さねばならないのだ。支倉の秘密を発く端緒を握ったのも彼である。最初に支倉を逃がしたのも彼である。それ以来の日夜の苦心焦慮は実に惨憺たるものであった。今日逃がしてなるものか。石子刑事は全身の血を湧き立たせながら、定められた部署のない自由な身体をあちこちと歩き廻らせていた。
午前十時は刻々に近づいて来た。
いつの間にか露店の数が増えて参詣人の人々も次第に多くなり、境内は朝の静寂から漸く昼間の喧噪へと展開して行くようだった。
今まで一塊になって日向ぼっこをしていた子供や子守り女の群はもうそんな悠暢な事はしていられないと云う風にキョト/\と歩き廻り始めるのだった。
石子刑事は油断なくこんな光景を睨み廻していたが、何を思いついたか足を早めて鳥居の外へ急いだ。と、その辺にしゃがんでいた見るから田舎臭い、真黒な日に焼けた中年の男が、脂だらけの煙管をポンとはたいて、腰に差した薄汚い煙草入にスポリと収めると、ヒョロ/\と立上って、石子の前に歩み出でヒョイと頭を下げて、