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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
袋の鼠も同然と境内の方へ追い詰めて行った石子は、はっと彼の二重廻しを掴んだが、彼は素早くそれを脱ぎ棄てたので石子刑事はタジ/\とした。その暇に彼はドン/\逃げて行く。咄嗟の間に早くも一切を悟った支倉は境内の方へ逃げては一大事と、態と石子を近くまで誘き寄せ、一歩の所でクルリと方向を転じて通りの方へ逃げ出したのである。
文章に書くと相当長いが、之すべて一瞬の出来事で、鳥居近くに構えていた田沼刑事もそれと悟る暇がなかったのだった。
「しまった」
そう心の中で叫びながら、石子刑事は忽ち用意の呼子の笛をピリ/\と吹いた。笛の音に応じて境内からバラ/\と四、五人の思い思いの服装の刑事達が現われた。見ると石子が一人の怪しい男を追って行く。それっと云うので一瞬の猶予もなく彼等はその後を追った。
支倉は毬栗頭を振り立てゝ走って行く。結んだ帯がいつしか解けて、長く垂れた端が裾に絡みつく。支倉は頑丈な身体の持主で、気力も頗る盛んではあったが、この時に年三十八と云うので、そう思うようには駆けられない。追って来るのは本職の刑事で半ばは二十台の血気盛んな屈強な男である。彼は次第に追いつめられた。