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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「公証人の名は分らないかい」

「神田大五郎とか云うのです」

「神田なら可成有名な公証人だ」

「それからね、石子さん」

中から出て来た男は呼びかけた。青年らしい声音である。

「松下一郎と云う男と盛に手紙の往復があるのです」

「松下一郎?」

「えゝ、私はね、どうもそれが支倉の変名じゃないかと思うのです。手蹟がね、例のそらお宅で見せて貰った脅迫状によく似ているのです」

「で、所は分らないのかい」

「分らないのです。むこうから来るのには所が書いてありませんし、こっちから出す奴はいつも浅田が自身で投函するらしいのです」

「ふん、そいつは怪しいな。岸本君、もう一度骨折頼むよ」

「宜しゅうございます。どうかして所を調べましょう」

「何しろね、対手は手剛いから気をつけなければならないよ。根岸でさえ手を焼いているのだから」

「承知しました。あなた方の方はどうなんです」

「さっぱり手懸りがないんだ」

石子――読者諸君も既にお察しの通り、浅田写真館に忍び寄った曲者は石子刑事だった。中から出て来たのは即ち、岸本清一郎青年である――は口惜しそうに云った。

「いつでもヘマ許りさ。荷物を担ぎ込んだ所を突き留て飛び込むと、本人がいる所か、ホンの荷物の中置所にしたに過ぎないのだ。