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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
「一週間目に支倉が来て口添えをして呉れたので、やっと放免せられました。実に馬鹿々々しい目に遭ったものです。所が当時は口添えをしてくれたり、いろ/\親切にして呉れたので、支倉を有難いと思いましたが、今考えて見るとどうも一杯嵌められたらしいのです」
火事の出た日の前日の夜、彼が鳥渡支倉の家を訪ねると、支倉は奥の一間でしきりに書物の手入をしていた。何でも久しく抛って置いたので、書物にカビが生えたと云って揮発油を綿に浸ましてせっせと拭いていたのだった。
「所が可笑しいんですよ」
谷田は一寸息をついだ。
「尤もみんな後で考えた事なんですが、第一夜になって書物の手入れを始めた事も疑えば疑えるんです。それに揮発油を含んだ綿を殆ど一回々々変えるのですよ。御承知の通り、綿は何もそう度々変えなくても好いのです。見ているうちに揮発油を含んだ綿がそこいら中に散りましたよ。私は家に帰ってから女房にあゝ綿を散らけては火の用心が悪いなあと話したものです。それを警察へ行った時に気がつけば好いものを、余りの事で気が転倒しているものですから、すっかり忘れて了ったのです。警察では可成侮辱的取調べを受けましたよ。