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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「そうです。神楽坂署のものです」

「では支倉の事につきまして、少しお耳に入れたい事があるのですが」

「え、じゃあなたは支倉を御存じですか」

「えゝ、よく知って居るのです。彼の為にひどい目に遭った事があるのです。支倉は放火をしたんじゃないかと思うのです」

「え、え」

石子刑事は思いがけない収穫に顔色をかえんばかりに喜んだ。

「そんな話なら往来ではなんですから。――えーと私の家へでも来て頂きましょうか。牛込ですが」

「私の家は直ぐそこですから」

洋服男が云った。

「拙宅までお出下さいませんか」

路々話したところに依ると、彼の名は谷田義三と云って、丸の内の或る商事会社に勤めているのだった。

家は淡路町の裏通りにあった。

彼は家の前に辿りつくと、這入る前に隣の二階家を指した。

「建て代りましたがね、之が支倉の家だったのです」

彼の家はこぢんまりとした平家で、綺麗好きと見えて、よく整頓した一間へ通された。

「さあ、随分古い事です。やがて十年になりましょうか。路々鳥渡お話した通り隣から火事が出ましてね」

彼の云う所によると、火事は支倉の家を半焼にしてすみ、彼の家は幸いに類焼を免れたのだったが、原因が放火だというので、思いがけなくも彼が嫌疑を受けて、一週間警察に止め置かれたのだった。