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ほうろうき(しょしゅつ)
放浪記(初出)
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页
事務所の会計の妻君が、私達の疲れたところを見計らっては、皮肉に油をさしに来る。
「急いでくれなくちゃ困るよ。」
フンお前も私達と同じ女工上りじゃないか、「俺達ゃ機械じゃねえんだよっ。」発送部の男達が、その女が来ると、舌を出して笑いあった。
五時になると、二十分は私達の労力のおまけだ、日給袋のはいった笊が廻って来ると、私達はしばらくは、激しい争奪戦を開始して、自分の日給袋を見つけ出す。
襷を掛けたまゝ工場の門を出ると、お千代さんが、後から追って来た。
「あんた、今日市場の方へ寄らないの、私今晩のおかずを買って行くの……。」
一皿八銭の秋刀魚は、その青く光った油と一緒に、私とお千代さんの両手にかゝえられて、サンゼンと生臭い匂いを二人の胃袋に通わせた。
「この道を歩いている時だけ、あんた、楽しいと思った事ない。」
「本当にね、私ホッとするわ。」
「あゝあんたは一人だからうらやましいわ。」
お千代さんの束ねた髪に、白く埃がつもっているのを見ると、街の華やかな、一切のものに火をつけてやりたいようなコオフンを感じる。
十一月×日
なぜ?
なぜ?
私達はいつまでもこんな馬鹿な生き方をしなければならないのか! いつまでたっても、セルロイドの唄、セルロイドの匂い、セルロイドの生活だ。