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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

歴史は常に新らしく生きる――。そこで磨れば燃えるマッチがうらやましくなった。

夜――九時。

省線を降りると、道が暗いので、ハーモニカを吹き吹き帰える。

詩よりも小説よりも、こんな単純な音だけど音楽はいゝナ。

七月×日

青山の貿易店も高架線のかなた。二週間の労働賃金拾壱円也、東京での生活線なんてよく切れたがるものだなア。

隣りのシンガーミシンの生徒? さんが、歯をきざむように、ギイギイ……しっきりなしにミシンのペタルを押している。

毎日の生活断片をよく寝言にうったえる秋田の娘さん。

古里から拾五円ずつ送金してもらって、あとはミシンでどうやら稼いでいる、縁遠そうな娘さん、いゝ人だ。

彼に紹介状もらって、××女性新聞社に行く。本郷の追分で降りて、ブリキの塀をくねくね曲ると、緑のペンキの脱落た、おそろしく頭でっかちな三階建の下宿屋の軒に、蛍程な社名が出ていた。

まるで心天を流すよりも安々と女記者になりすました私は、汚れた緑のペンキも最早何でもなく思った。

昼。

下宿の中食をもらって舌つゞみ打つと、女記者になって二三時間もたゝない私は、鉛筆と原稿紙をもらって談話取りだ。