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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

四畳半に厖大な事務机が一ツ、薄色の眼鏡をかけた社長と、××女性新聞発行人の社員が一人、私を入れて三人の××女性新聞。チャチなものだ。又、生活線が切れるんじゃないかと思ったが、兎に角私は街に出た。

訪問先きは秋田雨雀氏のところ――。

此頃の御感想は……私は此言葉を胸にくりかえしながら、雑司ヶ谷の墓地を抜けて、鬼子母神のそばで番地をさがす。

本郷の混々した所から此辺に来ると、何故か落ちついた気がする。二三年前の五月頃、漱石の墓にお参りした事もあったが……。

秋田氏は風邪を引いていると云って鼻をかみかみ出ていらっした。

まるで少年のようにキラキラした瞳、非常にエキゾチックな感じの人だ。お嬢さんは千代子さんとか云って、初めて行った私を拾年のお友達かのように話して下すった。

厚いアルバムが出ると、一枚一枚繰って説明をして下さる。此役者は誰、此女優は誰、その中には別れた男のプロフィルもあった。

「女優ってどんなのが好きですか、日本では……。」

「私判らないけど、夏川静江なんか好きだわ。」

私はいまだかつて、私をこんなに優さしく遇してくれた女の人を知らない。

二階の秋田さんの部屋には黒い牛の置物があった。