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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

十二月×日

真黄ろに煤けた障子を開けて、ボアッボアッと消えてはどんどん降ってる雪をじっと見ていると、何もかも一切忘れてしまう。

「お母さん! 今年は随分雪が早いね。」

「あゝ」

「お父さんも寒いから難儀しているでしょうね。」

北海道に行ってもう四ヶ月あまり、遠くに走りすぎて商売も思うようになく、四国へ帰るのは来春だと云う父のたよりが来てこっちも随分寒くなった。

屋並の低い徳島の町も、寒くなるにつれ、うどん屋のだしを取る匂いが濃くなって、町を流れる川の水がうっすらと湯気を吐くようになった。

泊る客もだんだん少くなると、母は店の行灯へ灯を入れるのを渋ったりした。

「寒うなると人が動かんけんのう……。」

しっかりした故郷をもたない私達親子三人が、最後に土についたのが徳島だった。女の美しい、川の綺麗なこの町隅に、古ぼけた旅人宿を始めて、私は一年徳島での春秋を迎えた事がある。

だがそれも小さかった私……今はもう、この旅人宿も荒れほうだいに荒れ、母一人の内職仕事になってしまった。

父を捨て、母を捨て、長い事東京に放浪して疲れて帰った私も、昔のたどたどしい恋文や、ひさし髪の大きかった写真を古ぼけた箪笥の底にひっくり返してみると懐しい昔のいゝ夢が段々蘇って来る。