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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

これも他愛のないお芝居か、さあこれから忙がしくなるぞ、私は男を二階に振り捨てると、動坂の町へ走って出た。

誰も彼も握手をしましょう、ワンタンの屋台に、首をつっこんで、まず支那酒をかたぶけて、私は味気ない男の接吻を吐き捨てた。

四月×日

「じゃあ行って来ます。」

街の四ツ角で、まるで他人よりも冷やかに、私も男も別れた。

男は市民座と云う小さい素人劇をつくっていて、滝ノ川の小さい稽古場に毎日通っていた。

私も今日から通いでお務めだ。

男に食わしてもらう事は、泥を噛んでいるよりも辛い、程のいゝ仕事よりもと、私のさがした職業は牛屋の女中さん。

「ロースあおり一丁願いますッ!」

景気がいゝじゃないか、梯子段をトントン上って行くと、しみじみ美しい歌がうたいたくなる。

広間に群れたどの顔も、面白いフィルムだ。

肉皿を持って、梯子段を上がったり降りたり、私の前帯の中も、それに並行して少しずゝふくらんで来る。

どこを貧乏風が吹くかと、部屋の中は甘味しそうな肉の煮える匂いでいっぱいだ。

だが上ったり降りたりで、いっぺんに私はへこたれてしまった。

「二三日すると、すぐ馴れてしまうわ。