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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

蒼ぶくれのした電報用紙が、ヒラヒラ私の頭に浮かんで来る。

馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿を千も万も叫びたい程、切ない私だ。高松の宿屋で、あの男の電報を受け取って私は真実、嬉し涙を流して、はち切れそうな土産物を抱いて、この田端の家へ帰えって来た。

半月もたゝないうちに又別居だ。

私は二ヶ月分の間代を払らってもらうと、程のいゝ居座りで、男は金魚のように尾をヒラヒラさせて、本郷の下宿に越して行った。

昨日も、出来上った洗濯物を一ぱい抱えて、私はまるで恋人に会いに行くようにいそいそと、あの下宿の広い梯子を上って行った。

あゝ私はあの時から、飛行船が欲しくなった。

灯のつき初めた、すがすがしい部屋に、私の胸に泣きすがったあの男が、桃割れに結った、あの女優と、魚の様にもつれあっている。水のように青っぽい匂いの流れてくる暗い廊下に、私は瞳にいっぱい涙をためて、初夏らしい、ハーモニカの音を耳にした。

顔いっぱいが、いゝえ体いっぱいが、針金でつくった人形みたいに固くなって切なかったけれど……。

「やあ……。」私は子供のように天真に哄笑して、切ない瞳を、始終机の足に向けていた。