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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

何年昔になるだろう――

十五位の時だったかしら、私はトルコ人の楽器屋に奉公していたのを思い出した。

ニィーナという二ツになる女の子の守りで、黒いゴム輪の腰高な乳母車に、よく乗っけてメリケン波止場の方を歩いたものだった。

クク……クク……鳩が足元近かく寄って来る。

人生鳩に生れるべし。

私は、東京の男の事を思い出して、涙があふれた。

一生たったとて、私が何千円、何百円、何拾円、たった一人のお母さんに送ってあげる事が出来るだろうか、私を可愛がって下さる行商してお母さんを養っている気の毒なお義父さんを慰さめてあげる事が出来るだろうか! 何も満足に出来ない女、男に放浪し職業に放浪する私、あゝ全く頭が痛くなる話だ。

「もし、あんたはん! 暑うおまっしゃろ、こっちゃいおはいりな……。」

噴水の横の鳩の豆を売るお婆さんが、豚小屋のような店から声をかけてくれた。

私は人なつっこい笑顔で、お婆さんの親切に報いるべく、頭のつかえそうな、アンペラ張りの店へはいって行った。

文字通り、それは小屋で、バスケットに腰をかけると、豆くさいけれど、それでも涼しかった。

ふやけた大豆が石油鑵の中につけてあった。