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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

旅と云うものはおそろしいようで、肩のはらないもの。

女達は、まるで蓮の花のように小さい湯舟を囲んで、珍らしい言葉でしゃべっている。

旅の銭湯にはいって、元気な顔をしているが、あの青い壁に押されて寝る今夜の夢を思うと、私はふっと悲しくなった。

七月×日

坊さん簪買ふたと云うた……

窓の下を人夫達が土佐節を唄いながら通って行く。

ランマンと吹く風に、波のように蚊屋が吹きあげて、まことに楽しみな朝の寝ざめ、郷愁をおびた土佐節を聞いていると、高松のあの港が恋いしくなった。

私の思い出に何の汚れもない四国の古里、やっぱり帰えろうかなあ……御飯焚きになってみたとこで仕用がないし……。

オイ馬鹿!

メス!

赤豚!

別れて来た男のバリゾウゴンを、私は唄のように天井に投げとばして、バットを深々と吸った。

「オーイ、オーイ」船員達が呼びあっている。

私は宿のお上さんに頼んで、岡山行きの途中下車の切符を、除虫菊の仲買の人に壱円で買ってもらうと、私は兵庫から、高松行きの船に乗る事にした。

元気を出して、どんな場合にでも、へこたれてはならない。

小さな店屋で、瓦煎餅を一箱買うと、私は古ぼけた、兵庫の船宿で、高松行きの三等切符をかった。