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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

二月×日

二人共面伏せな気持ちで御飯をたべた。

「此頃は少しなまけているから、梯子段を拭いてね、私洗濯するから……。」

「私するから、こゝほっといていゝよ。」

寝ぶそくな、はれぽったい時ちゃんの瞼を見ると、たまらなくいじらしくなる。

「時ちゃん、その指輪どうして……。」

かぼそい薬指に、サンゼンと白い石が光って台はプラチナだった。

「紫のコートは……。」

「……」

「時ちゃんは貧乏が厭になってしまった?」

私は下の叔母さんに顔を合わせる事は肌が痛くなる。

「姉さん! 時坊は少しどうかしてますよ。」

水道の水と一緒に、叔父さんの言葉が痛く来た。

「近所のてまえがありまさあね、夜中に自動車をブウブウやられちゃあね、町内の頭なんだから、一寸でも風評が立つと、うるさくてね……。」

あゝ御もっとも様で、洗いものをしている脊にビンビン言葉が当って来る。

二月×日

時ちゃんが帰らなくなって五日。

ひたすらに時ちゃんのたよりを待つ。

彼の女はあんな指輪や、紫のコートのおとりに負けてしまった。

生きてゆくめあてのないあの女の落ちてゆく道かも知れない。

あんなに貧乏はけっして恥じゃあないと云ってあるのに……十八の彼の女は紅も紫も欲しかった。