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ほうろうき(しょしゅつ)

放浪記(初出)

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页

青空文庫

大船に乗ったつもりでいらっしゃい。」

二人は、でもおのおのの淋しさを噛み殺していた。

「何だか心細くなって来たね。」

時ちゃんは淋しそうに涙ぐんでいた。

「もうこれッ位でいゝだろう、俺達も仕事しなくちゃいけないから。」

十時頃だ、星がチカチカ光っていた。

十三屋の櫛屋のところで、自動車を止めてもらうと、時ちゃんと私は、小さい財布を出しあった。

「街中乗っけてもらったんだから、いくらかあげなきゃあ……。」

吉さんは、私達の前に汚れた手を出すと、

「馬鹿! 今日のは俺のセンベツだよ。」

吉さんの笑い声が大きかったので、櫛屋の人達もビックリしてこっちを見ていた。

「じゃ何か食べましょう、私の心がすまないから。」

私は二人を連れると、広小路のお汁粉屋にはいった。吉さんは甘いもの好きだから。

――ホラお汁粉一杯上ったよ!

――ホラも一ツあとから上ったよ!

お爺さんのトンキョウな有名な呼び声にも今の淋しい二人には笑えなかった。

「吉さん! 元気でいてね。」

時ちゃんは吉さんの鳥打ち帽子の内側をクンクンかぎながら、子供っぽく目をキロキロさせていた。

歩いて本郷の酒屋へ帰えった時は、もう十二時近かゝった。