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ほうろうき(しょしゅつ)
放浪記(初出)
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 103,349 字 · 207 页
「芙美ちゃんどっかへ引越す時は知らしてね、たい子さんによろしく云ってね。」
時ちゃんには、真実いとしいものがあった。
野性的で、行儀作法は知らないけれど、いゝところが多分にあった。
「久し振りで、別れのお酒もりでもしようか……。」
「おごってくれる……。」
「体を大事にして、にくまれないようにね。」
都寿司にはいると、お酒を一本つけてもらって、私達はいゝ気持ちに横ずわりになった。
雨がひどいので、お客も少ないし、バラックでも、落ちついた家だった。
「一生懸命勉強してね。」
「当分会えないね、時ちゃん、私もう一本呑みたい。」
時ちゃんはうれしそうに手を鳴らした。
時ちゃんをカフェーに置いて帰えると、たい子さんは一生懸命書きものをしていた。
九時頃山本さん来る。
私は一人で寝床をひくと、たい子さんより先に寝る。
十二月×日
フッと眼を覚ますと、せまい蒲団なので、私はたい子さんと抱きあってねむっていた。
二人ともクスリッと笑いながら、脊をむけた。
「起きない。」
「私いくらでも眠りたい……。」
たい子さんは白い腕をニュッと出すと、カーテンをめくって、陽の光りを見た。