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ほうろう

放浪

織田 作之助

「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,399 字 · 47 页

青空文庫

一杯行こうと叔父が差し出す盃を順平はかしこまって戴き、呑み乾して返えす。それだけの動作の間にも、しーんとした空気が漲っていた。その空気が破れたかと思うと、順平は、阿呆の自分にもこれだけは云わしてほしい言葉、けれど美津子さんは御承諾のことでっかと、三十男のような問い方をした。尼になる気持で……などと云うたら口を縫いこむぞといいきかされていた美津子は、いけしゃあしゃあと、わてとあんたは元から許嫁やないのといった。二親はさすがに顔をしかめたが、順平はだらしなくニコニコして胸を張り、想いの適った嬉しさがありありと見えて、いやらしい程機嫌を誰彼にもとった。阿呆程強いもんはないと叔母はさすがに烱眼だった。

婚礼の日が急がれて、美津子の腹が目立たぬ内にと急がれたのだ。暦を調べると、良い日は皆目なかったので、迷った挙句、仏滅の十五日を月の中の日で仲が良いとてそれに決められた。婚礼の日、六貫村の文吉は朝早くから金造の家を出て、柿の枝を肩にかついで二里の道歩いて、岸和田から南海電車に乗った。難波の終点についたのは正午頃だったが、大阪の町ははじめてのこと故、小一里もない生国魂神社前の丸亀の料理場に姿を現わしたのは、もう黄昏どきであった。