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ほうろう
放浪
織田 作之助
「文學界 第七年第五号」文藝春秋、1940(昭和15)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,399 字 · 47 页
そして意地わるい快感で声も震え、わりや継子やぞ。
泉北郡六貫村よろずや雑貨店の当主高峰康太郎はお婆の娘のおむらと五年連れ添い、文吉、順平と二人の子までなしたる仲であったが、おむらが産で死ぬと、これ倖いと後妻をいれた。これ倖いとはひょっとすると後妻のおそでの方で、康太郎は評判のおとなしい男で財産も少しはあった。兄の文吉は康太郎の姉聟の金造に養子に貰われたから良いが、弟の順平は乳飲子で可哀相だとお婆が引き取り、ミルクで育てている。お婆が死ねば順平は行きどころが無いゆえ継母のいる家へ帰らねばならず、今にして寝小便を癒して置かねば所詮いじめられる。後妻には連子があり、おまけに康太郎の子供も産んで、男の子だ。
……お婆はひそかに康太郎を恨んでいたのであろうか。順平さえ娘の腹に宿らなんだら、まからんやが雨さえ降らせなんだらと思い、一途に年のせいではなかった。云うまじきことを云い聴かせるという残酷めいた喜びに打負けるのが度重って、次第に効果はあった。継子だとはどんな味か知らぬが、順平は七つの頃から何となく情けない気持が身にしみた。お婆の素振りが変になり、みるみるしなびて、死んで、順平は父の所に戻された。