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ぶんかさい

文化祭

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第九号」1954(昭和29)年6月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,978 字 · 28 页

青空文庫

「ワー。助からない」

「小森ヤツ子さん!」

「へんな声をださないで。私もう帰るわよ。でも、覚えてらッしゃい。二等の運賃は忘れないから」

「モシ、モシ」

「たくさんだッたら!」

「念のために申上げたいのですが、最終のバスはとっくにでました。次のバスは明朝まででませんが」

「私の連れの方は?」

「ボクは存じません」

「お連れの方はボクが最終のバスに御案内いたしまして、無事おのせいたしましたんで」

「私にはバスの時間も知らせなかったのね」

ヤツ子の怒りはここに至ってバクハツしたが、内心大いによろこんでいるのは信二であった。怒り、激怒。これぞ関係中の関係だ。ここに於て二人の心は深く交っているのである。怒り、憎しみ、愛、それは表面の波紋にすぎない。まず何よりも心が深く交ることが大切なのである。あとは潮時と運命の問題だ。これが彼の哲学だ。

「今日は文化祭で若い衆が飲んでますから、婦人の夜歩きは危いです」

「ほッといて下さいな」

「イエ、どこまでもお伴します」

ヤツ子はズンズン歩いたが、日がとっぷり暮れてしまうと、何一ツ見えなくて歩けない。三歩ほどうしろに相変らず信二がついてくるので、日が暮れきってみると、とにかくその存在がなんとなくタノミでもある。