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ぶんがくにおけるこんにちのにほんてきなるもの

文学における今日の日本的なるもの

宮本 百合子

「文芸春秋」1937(昭和12)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,792 字 · 20 页

青空文庫

明治以来今日までの七十年間、日本のブルジョア文学はみな少からぬ波瀾を経て来た。いくつかの文芸思潮がそれぞれの作用をのこして過ぎたが、真に当時の社会的欲求と全面的に結びつき、それを反映しつつ民衆の生活感情にまで浸透して指導的な役割を果したブルジョア文学の時代と云えば、日本では恐らく明治初年から国会開設まで二十数年間の所謂開化期の文学活動だけであったのではなかろうか。「佳人之奇遇」「雪中梅」等の筆者達は、福沢諭吉を新時代の大選手として、急テンポに欧化し、資本主義化しなければならなかった当時の日本の社会感情の先達となった。自由民権の云われた時代の作物が、今日なお面白く、或る気魄によって読ませるのは、筆者の全生活がかかる社会的現実の上に活きていたからである。当時の文筆家は、実際に新興ブルジョアジーが最も必要とした文明開化の輸入者、供給者、啓蒙者であった。所謂要路の大官の開化思想の方向とその実行の内容を暗示し、指導し得る立場にあった。これ等の人々は、若いブルジョア日本の建設期に、文化的な活動と文学活動との分化を未だ認識せず、商売をはじめた政治家とひとし並或は一頭角をぬいた経世家として、自身を感じていたのであった。