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しんねんのあいさつ
新年の挨拶
山川 方夫
「新刊ニュース 第一三巻第二二号(一月一日・一五日合併号)」1963(昭和38)年1月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,866 字 · 6 页
その女が、まるで習慣のように、毎年の元旦、声だけで夫を訪ねてくるのだ。
彼女は、その女の顔を憶えている。まだ婚約したてのころ、夫と二人で銀座を歩いていたとき、擦れちがいざま大仰な声をあげて夫に挨拶をしたのが彼女だった。色の白い、瘠せてはいるが猫のように身のしなやかな感じの、頬に大きな黒子がある女だった。しばらくのあいだポカンとして、「ああ」と夫が間の抜けた声を出したときは、女はすでに雑沓の中にかくれていた。夫は、そして彼女にその女のことを説明した。……べつに、嫉妬はなかった。美しくないとはいえない女だったが、彼女には、でもその女はけっして夫の好きなタイプの女ではないという確信があった。
翌年、夫と結婚して、今年でもう四年になる。夫の話だと、その三年まえ、つまり二人が見合いをした翌々年の正月から、こうした電話がかかりはじめたのだという。だとしたら、欠かさずにもう七年。それは、一つの執念じみたものと思えないでもない。
「だって、あなたとは話す用事も、話すべき理由もないって電話を切っちゃっても、かならずお正月のうちにまたかかってくる。仕方ないからこのごろじゃあきらめて三十分間だけは合槌をうってやることにしているんだ。