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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

また、いわく。

――足下が、余の国と結ばなければ、余の兵力は、龍興を援護するかもしれない。

などとあらゆる恫喝や好餌を携えて、浅井、朝倉、武田、北畠などの使者が、半兵衛を自国へ引き入れにやって来たが、半兵衛はそのどれへも、同じ笑いをもって、

(何をうろたえてお見舞にお越しくだされたか。ほんの些細なる内政の些事でござる。其許たちの御主君が、半兵衛を御覧なされたいならば、戦場までお越したまわりたい。いつなりとも半兵衛推参、お目にかかり申すであろう)

と、答えた。

彼を引き入れに行った使者のうちには、織田家の使者もあった。信長は、書をもって、

――美濃半国を与うるが、この際、随身の意はないか。

と、云い遣ったのである。

勿論、半兵衛に突っ返された。

半兵衛は、間もなく、自分の意思を、主君へも、天下に向っても、明らかにしてみせた。

城を、龍興に返し、何もいわずに、越前の浅井家へ去ってしまったのである。しばらく、そこに食客していた。

浅井家でも引き留められたが、袂を払って、故郷の岩手へもどって来ると、自分の居城を、叔父の竹中重利にあずけて、

(――自分の一命も、年来研鑽してきた兵学も、それを捧げ尽くすべき主を見失って、なんだか近頃は、世の中がつまらなくなった。