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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
「愚痴はやめた!」
と、いった。
そしてもっと足早に麓まで駈け降りて行った。
茂右衛門の家へ帰ると、
「桑十桑十。思わず長旅になったが、明日は帰国いたそうな。朝早く立つとしようぞ」
と、いった。
その元気な顔いろに、供の佐屋桑十は、さては竹中半兵衛殿とよいお話になったに違いない、と察してともどもよろこんでいた。
自分と桑十に、茂右衛門の親子など加えて、その夜は立ち振舞いして寝こんだ。
何も考えず彼は眠った。桑十はその鼾声に驚いて時折眼をさました程だった。――が、考えてみると、毎日、栗原山の上まで通った肉体の疲れと心労は、傍眼に見ていてさえ並大抵ではなかった。いっぺんに御疲労が出たのであろう――そう知ると桑十のような武骨者でも、涙ぐまれて来た。
「少しでも、人の上に立とうとするには、たいへんなものだなあ」
沁々、主人の努力を感じた。けれどその結果が失敗に終ったことは知らないのである。
夜が白むか白まないうちに、藤吉郎はもう旅支度をすましていた。露をふんで村を出た。村の土民の家さえまだ寝ているのが多かった。
「待て、桑十」
ふいに彼は立ちどまった。日の出のほうへ向って黙然と突っ立っているのだ。