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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
桃源
信長には仕え申さん。――あなたに仕えよう。おん身に、この痩せすがれた病骨を進ぜよう。――それ申しに、これまで参った。過日来の失礼はゆるされよ」
桃源
久しく戦いもない。
尾濃両国は、いずれも守備をかため、雪と木枯らしに、この冬はまかせていた。
すこし平和と見ると、旅行者の数や、荷駄の交通は目立って多くなった。
正月を越え、やがて桃李の芽や花が色づくと、街道の庶民は、百年でもこのままな無事がつづくように思って、欠伸していた。
稲葉山城の白壁にも、日永の陽があたっている。惰気と倦怠の陽炎が、そこの白壁にも見てとれる。そんな日に、絶頂の山城を麓から仰ぐと、
(なんだって、あんな高い嶮岨な上へ、不便をしのんで城を建てたものか)
と、その心理が怪しまれるくらいだった。
城下の民は、敏感だった。自分たちの中心が緊張していればすぐそれを感じ、惰気にみちていれば、彼らも共に惰気に満ちる。――いくら高札ばかり朝夕に建てても、ほん気には取らないのである。
龍興は眠っていた。
桃園の茶亭で、手枕のまま酔いつぶれていた。春の真昼である。鍋鶴やら水禽やら近くの泉で啼いている。