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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
母に侍す
小牧山から稲葉山へ、信長は三度目の城を移した。
同時に、岐阜と改め、城も、岐阜城と呼び改めた。
ここに一人、斎藤家にも、薫しい武士がいた。堂洞の城主岸勘解由だった。
彼は、主家の滅亡を見、信長からも随身を諭されたが、それに答えて、
「尊命は謝すが、亡家の庭にも、一本の桜はあってしかるべく存ずる。不遜ながら、伝来の一矢を酬い参らせて、敢えて散り申す」
尾張の大兵をうけて、善戦半月の余、矢弾尽きるの日、勘解由は、炎の中で静かに、夫婦対いあってさし交えた。
信長は、碑を建ててやった。戦後も、この武士のはなしをよく口に出した。
初秋の九月。
藤吉郎は、洲股へさして帰城した。この戦から、彼は初めて、馬印を主君からゆるされた。行軍の秋をてらてら耀いてゆく竿頭の一瓢がそれであった。
母に侍す
一頃から見ると、清洲の町はさびしくなっていた。人口も減り、大きな商家や侍屋敷の数も目立って減ってきた。
けれど、そのさびれ方には、脱穀の満足が耀いていた。あらゆる生命の原則どおり、生みの母胎はその任務だけを果すと、やがて老いに帰して安んじなければならない――信長というものが、いつまで郷土に膠着していないことは、郷土自体にはさびれでも、大きな意味で、みな歓びとしているからであった。