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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

ように。

美濃入りした後も、陣中からそういったような手紙が何十ぺん、この邸へは訪れて来たか数も知れない程だった。

そのたびに、老母は、

「寧子よ、この便りを見やい。いつも子どものようなことを書いて」

と、嫁に示せば、寧子もまた、自分へ来た良人の手がみを母にみせて、

「なかなか、わたくしへ下さるお手紙は、こんなお優しくはございません。火の元の用心、留守中の女のつとめ、それとお母様への心がけなど」

「あの子もなかなか如才ないところがあるでの。そなたへの手紙と、母への手紙と、ひとつは厳しゅう、ひとつは優しゅう、両方合わせて見ればちょうどよいように書き分けてあるのじゃろう」

「ホホホホ。ほんにそうかも知れませぬ」

寧子は心から良人の母によく侍いた。いや良人の母といっては当らない。生れながらこの母の腹から自分も出たように、折には甘えもし、戯れもし、笑って暮すことに努めた。

その老母の歓ぶのは、なんといっても、藤吉郎の便りだった。――それがここ久しく絶えていたので案じていたところへ、きょう洲股から書面が届いた。けれどなぜか、今日のは彼女への一通だけで、母に宛てた分はなかった。