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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
「それでのうても、あの子の早い出世に、中村の猿がとか、水呑み百姓の伜がとか、そねみの多い中にある藤吉郎じゃ。むくつけき百姓婆が、お城の奥で、畑打ちなどしていたら、あの子の家来達も、主人を軽んじ、ひいては藤吉郎も辛かろう……」
「いえもし、お母あ様。それは取り越し苦労と申すものでござります。見えを飾り、人の聞えを気にする性の人なら知らぬこと、良人は、そんな毀誉褒貶に心を左右されるお方ではありません。――従って、良人に付いている家来衆とても」
「そうかの……。こんな姿が、一城の主の母ぞと臨んでも、あの子の顔には障るまいか」
「そんな小さい人物の良人ではございません」
寧子のことばが、余りきっぱりしていたので、老母は驚きの眼をみはり、やがて、その眼から、滂沱として、欣し涙をこぼしてしまった。
「すまぬこというたの。寧子よ、ゆるして下されや」
「さあ、お母あ様、陽も暮れますゆえ、手足などお洗ぎ遊ばして」
寧子は、二つの重い籠を、両手にさげて、先へ歩いた。
夕方の清掃にかかる。召使と共に、寧子も箒を持つ、雑巾をかける。殊に、老母の部屋の一切は、努めて、彼女の手で何もかもするようにしていた。