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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

「そうだ」

急に気づいて、藤吉郎は云い出した。

「実は、岐阜城の信長様から、今夕御書面が到来。はて、何事やらんと、拝披いたしてみると、御文言はわずか数行、

小閑、岐阜ニ得ルモ忽チ倦ム

風雲オサマッテ更ニ風雲ヲ望ム

花鳥風月マダ友ニアラズ

今歳ノ計策ソレ如何

――こんなお質ね事が書いてあるのだ。どう御返書を認めたらよいだろう」

「お答えは、一行で足りましょう。――お質ねの御意中は明白ですから」

「ム。それは自分にも分っておるが……。一行で、どうお答えするか」

「隣交遠計」

「……隣交遠計と?」

「さればです」

「ムム。なるほど」

「岐阜を得られて、今年は内政を整え、兵馬を養うて、さらに他日を待つ時であると――こう信長様にはお考え中のものと思われますゆえ」

「そのおつもりに相違はない。……が、ああいう御気性、平日たりとも、無為に過しておられぬままに、その計策を問うておよこしなされたものだ」

「遠きを計り、近きと結ぶ、今は絶好な機会かと思われます」

「それには?」

「いささか愚考もありますが、そういうことには、それがしよりは、あなた様のほうが、縦横の御才器と申すもの。……まず隣交遠計の四字だけを、お答えの書中にいたして、上使をお帰しあって後、折を見て、直々に、岐阜城へ御献策あるがよろしかろうと存ぜられます」