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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
そして、どの眼も、刮と大きく、真昼の雲をにらんでいる。
桃畑の端れに、庄屋の家がある。家は大半焼け落ち、焼け跡の井戸のそばには牝牛が焼け死んでいた。悲しげにうろついている仔牛の声が耳につく。すぐ側の陣幕から顔を出した将が、
「うるさいな。おいッ、この仔牛をどうかしろ」
と、呶鳴ると、足軽の一人が、槍の柄で仔牛のしりを力まかせに打った。仔牛は、菜種畑へいっさんに駈けたが、畦の小川に落ちて、なお悲しげに啼きぬいていた。
幕の外に立っている歩哨の兵が、それを見て笑った。――が、急に、厳粛な顔へ戻って、内から聞える声に耳を欹てた。
楯や陣幕を繞らしたそこの本部の中では、さっきから激論が交わされていた。夜明け方、轡をならべてこの村へはいった各部隊の将星たちが、端なくも、これからの作戦上に、意見の相違を来して、互いに譲らないためらしい。
滝川一益は、桑名、蟹江の二城を指揮して、早くから伊勢と対峙していたこの方面の主将であるから、彼の決裁に待っていいはずであるが、さて、
「いずれにも一理はある」
と、のみで、敢えて彼はそのどっちへも、賛否を明らかにしなかった。
論争は、ここ二十日ほどの間に、前後して、伊勢の戦野に参加した新鋭の援軍の将たちの間に闘わされて、一部は、