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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

「だが、金ヶ崎を突破せずに、前へ進むことはなるまい。左様な無謀は、好んで腹背に敵をまわし、自ら死地に入るものだ」

「もとより、そんな無策を、おすすめ申す次第ではありません」

云いかけて、藤吉郎は、ふと横をふり向いた。

そこに家康が来て、佇んでいたからである。

彼は、家康のすがたを見ると、あわてて身を退いて一礼した。――そして家康のために、敷物を持って来て、信長のそばへ座をすすめた。

「かまいませんか」

家康は、信長へたずねてから、藤吉郎の設けた席へ坐った。けれど藤吉郎には、一顧の会釈もしなかった。

「何か御協議中のようでござるが……」

家康がいうと、

「いや、これにおる者が――」

と、信長は藤吉郎を頤でさして、金ヶ崎の攻撃は意味のない戦だというので――と、やや面を和らげて、ありのまま、家康に語った。

家康は、

「うむ。むむ……なるほど」

と、うなずきながら、じっと、藤吉郎の顔ばかり見ていた。

主君の信長より、八ツも年下の家康であるが、藤吉郎の眼には、あべこべに見えてならなかった。――自分を正視しながら、幾度もうなずいている振りや眼ざしは、どうしても二十だいの人と思えなかった。