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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
前面の朝倉勢は、そのせいか、士気旺んで、ともすれば、一乗谷を出て、猛烈に反撃して来そうな勢いに見えた。
「――死地に入った」
信長は、直感した。兵法の上から見れば、まさに、自分のひきいている遠征の大兵は、完全に、必殺の方位を破っている。敵国の中に墓を求めているに等しいことを覚った。
そう彼がにわかに恐れたのは、佐々木六角や浅井長政が、背後を扼したというだけのものではない。信長が骨髄から恐怖したのは、この地方に夥しい巣窟を持っている本願寺門徒の僧兵がみな、
「侵略者を討て」
と、反信長の旗幟を、諸方で翻したと聞えたからであった。
突。天候が変ったのである。
遠征軍は、沖へ出た舟だ。
「総退却!」
方針はすぐきまった。
けれど十万の大退口を、どうとるか、由来、前進はやすく、後退は難しい、と兵家も訓めている。――まちがえば、全軍殲滅の憂き目に遭う。
「殿軍の役、それがしにお命じください。そして殿には、多勢を連れず、朽木谷の間道から、夜にまぎれて、死地を脱せられ、暁へかけて、その余の味方も、一路京へおひき揚げあるがよいかと思います」
一刻たてば、一刻ほど危険は濃くなってくる。