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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

「お覚えはございませんか」

「ない」

「ではいよいよ怪しい奴。苦しまぎれの詭弁とみえます。心得ました。そう分れば、こッぴどい目に遭わせて、馬もろとも、叩き撲って、清洲へ追ッ返してくれましょう」

度々の取次を煩わされて、家人は業腹でもあった。

見ておれ――という顔つきを持って、その姿が中の木戸まで駈け出した時、なお、書院の沓石に立ったまま考えていた小六が、

「待て」

と、呼びとめた。

「あ。何かまだ?」

「ウム。ちょっと待て。……ことによるとその男は、猿ではないかな」

「猿。――そういえば、自分でも、日吉で分らなければ、猿とお告げくださいなどといっていましたが」

「さては、猿か」

「ご承知なので」

「――とすれば、屋敷にもしばし飼いおいて、庭掃きや亀一の守などさせ、眼はしのきいた童であったが」

「けれど、織田信長の使者で来たというのは、おかしなわけで」

「解せぬが。――身装は」

「一かどです」

「ふーム?」

「物の具に、陣羽織を着、よほど遠路からでも来たように、鞍あぶみまで露や泥にまみれ、弁当行李や旅具など結いつけておりました」

「……ま。通してみろ」

「通しますか」

「念のため、面を見てくりょう」