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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

「御時勢はありがたいな。汝のような男でも、侍に抱えてくれる者がある。――主人は誰か」

「織田上総介信長様です」

「あの、じゃじゃ馬か」

「時に」

藤吉郎は、ちょっと、語気をかえて、

「つい、私事の余談のみ先に申しあげましたが、今日は、信長の一家臣木下藤吉郎、実はひそかにわが君の上意を帯してこれへ参りました」

「そうか。汝が使者か」

「通ります。――御免」

いうと、藤吉郎は、陣草鞋を脱ぎすて、小六の腰かけていた縁先の沓石から、ずっと上がって、書院の床の間をうしろに、自分で上座を取って悠ったりと坐りこんだ。

「ほう」

小六は、縁に腰をかけたまま、動かなかった。

上がれともいわれないのに、ずかずか踏み上がって、書院の上座へ大きく坐った藤吉郎の姿を、そこから振り向いて、

「猿」

と、呼んだ。

さっきは答えたが、今度は答えない。藤吉郎は、じろと眼を向けただけである。

小六は、稚気を嘲うように、

「おいおい猿。汝は、遽かに容態を構え直したが……ははあ、今までは、一個人として挨拶したが、これからは信長の使者という格式であるぞ――というわけか」

「そうです」

「では、すぐ帰れ」

「…………」