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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

「立ち去れッ。猿!」

小六は、沓石へ突っ立った。語気の荒さ、その眼ざしも、今までの彼ではなかった。

「汝の主人信長は、この蜂須賀村も、領土の内と心得ておるかしらぬが、蜂須賀村はおろか、海東郡のあらましは、小六正勝の手で治まっているのだ。その小六は祖先累代、信長から一粒の粟だに喰わせてもらった覚えはない。――領主面しておれに臨むなどは片腹いたい骨頂だ。帰れッ猿。慮外なまねすると、蹴殺すぞ」

はったと、睨めつけて、

「――帰ったらそう申せ。信長とおれとは対等だ。小六に用あらば、自身で来いと。――わかったか、猿ッ」

「わかりません」

「なに」

「あわれむべし、あなたもやはり無智な野武士の頭領に過ぎなかったか」

「なッ、なにをッ、小ざかしい」

小六は飛び上がって、書院の中に突っ立ち、太刀のつかに手をかけて臨み直した。

「猿、もう一度ほざいてみろ」

「お坐りなさい」

「だまれ」

「いや、お坐りあれ。藤吉郎が申さんとする儀は」

「やかましいッ」

「いや、それがしは、あなたの無智蒙昧をひらいてやるのだ。教えるのだ。坐れ」

「こいつが!」

「待てッ小六殿。太刀をもって藤吉郎を両断するなどは、場所はここ、腕はあなたのこと、何も急ぐにあたるまい。