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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
03 第三分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页
城の望楼を下りて、自分の居間にもどると、藤吉郎は、
「彦右衛門はおるか」
と、訊ね、部下の者が、いる由を答えると、
「ちと、相談がある。彦右衛門にすぐ来てくれまいか――といってくれ」
と、いいつけた。
蜂須賀彦右衛門正勝は、信長の命で、後見としてこの洲股にいることになったので、守将の藤吉郎の配下についたわけであるが、藤吉郎の家臣ではない。それに以前の旧縁もあるので、藤吉郎も粗略には扱わなかった。
「お呼びの由だが、何か御用かな」
彦右衛門は、すぐ見えた。
蜂須賀村にいた頃の小六正勝とちがって、彼は、礼儀正しかった。
藤吉郎の前へ出ても、以前の関係などにこだわるふうもなく、自分よりずっと若い藤吉郎を、守将と立てていた。
「もっと寄ってもらいたい」
「では、御免を」
「おまえ達は、退っておれ。おれが呼ぶまで――」
と、藤吉郎は側にいる侍を遠ざけて、
「……折り入って、相談だが」
「は、何事の?」
「その前にだ」
と、声を落し――
「美濃の内状は、この藤吉郎よりも、お手前のほうが通じておると思うが、今なお、美濃が大国の強固を保って、この洲股といえども、枕を高くしていられない底力は――一体どこにあるのだろうか」