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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

「炭はあるの?」

「炭は、階下の小母さんが取りつけの所から月末払いで取ってやるって云ったわ。」

時ちゃんは安心したように、銀杏がえしのびんを細い指で持ち上げて、私の背中に凭れている。

「大丈夫ってばさ、明日からうんと働くから元気を出して勉強してね。浅草を止めて、日比谷あたりのカフエーなら通いでいいだろうと思うの、酒の客が多いんだって、あの辺は……」

「通いだと二人とも楽しみよねえ、一人じゃ御飯もおいしくないじゃないの。」

私は煩雑だった今日の日を思った。――萩原さんとこのお節ちゃんに、お米も二升もらったり、画描の溝口さんは、折角北海道から送って来たと云う餅を、風呂敷に分けてくれたり、指輪を質屋へ持って行ってくれたりした。

「当分二人で一生懸命働こうね、ほんとに元気を出して……」

「雑色のお母さんのところへは、月に三十円も送ればいいんだから。」

「私も少し位は原稿料がはいるんだから、沈黙って働けばいいのよ。」

雪の音かしら、窓に何かササササと当っている音がしている。

「シクラメンって厭な匂いだ。」

時ちゃんは、枕元の紅いシクラメンの鉢をそっと押しやると、簪も櫛も枕元へ抜いて、「さあ寝んねしましょう。