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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
同居の軍人上りや二階でおしめを洗ったその細君や、人のいい酒屋の夫婦や。用が片づいたら、あの頃の日記でも出して読みましょう。
「どうしたかしら、たい子さん?」
「あのひとも、今度こそは幸福になったでしょう。小堀さん、とても、ガンジョウないい人だそうだから、誰が来ても負けないわ……」
「いつか遊びに連れて行ってね。」
二人は、階下の小母さんから借りた上蒲団をかぶって寝た。日記をつける。
一、拾参円の内より
茶ブ台 壱円。
箱火鉢 壱円
シクラメン一鉢 参拾五銭。
飯茶わん 弐拾銭。 二個。
吸物わん 参拾銭。 二個。
ワサビヅケ 五銭。
沢庵 拾壱銭。
箸 五銭。 五人前。
茶呑道具 盆つき 壱円拾銭。
桃太郎の蓋物 拾五銭。
皿 弐拾銭。 二枚。
間代日割り 六円。(三畳九円)
火箸 拾銭。
餅網 拾弐銭。
ニュームのつゆ杓子 拾銭。
御飯杓子 参銭。
鼻紙一束 弐拾銭。
肌色美顔水 弐拾八銭。
御神酒 弐拾五銭。 一合。
引越し蕎麦 参拾銭。 階下へ。
一、壱円拾六銭 残金
「たったこれだけじゃ、心細いわねえ……」
私は鉛筆のしんで頬っぺたを突つきながら、つんと鼻の高い時ちゃんの顔をこっちに向けて日記をつけた。