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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

もうじき冬が来る

山の樹がそう云った。

小雨が走って云いに来た

郵便屋さんがまるい帽子を被った。

夜が云いにきた

もうじき冬が来る

鼠が云いに来た

天井裏で鼠が巣をつくりはじめた。

冬を背負って

人間が田舎から沢山やって来る。

童謡をつくってみた。売れるかどうかは判らない。当にする事は一切やめにして、ただ無茶苦茶に書く。書いてはつっかえされて私はまた書く。山のように書く。海のように書く。私の思いはそれだけだ。そのくせ、頭の中にはつまらぬ事も浮んで来る。

あのひとも恋しい。このひともなつかしや。ナムアミダブツのおしゃか様。

首をくくって死ぬる決心がつけばそれでよろしい。その決心の前で、私は小説を一つだけ書きましょう。森田草平の煤煙のような小説を書いてみたい。

夜更けて谷中の墓地の方へ散歩をする。

きらめくばかりの星屑の光。なんの目的で歩いているのかはわからないけれども、それでも私は歩く。按摩さんが二人、笛を吹いては大きく笑いながら行く。下界は地とすれすれに、もやが立ちこめて秋ふけた感じだ。

石屋の新しい石の白さが馬鹿に軽そうに見える。私は泣いた。行き場がなくて泣いた。