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しんさいゆうき
新西遊記
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页
督弁政務使、大参事、大書記官、大臣以下、金繍の職帯をしめ大きな立毛のついた礼帽をかぶった枢機員が、法皇の転生をちょっとばかり早める事務の、最後の仕上げの部分を検分するために入ってくる。
侍医長は、羚羊の生血と、猿の脳エキスと、印度大麻草の煎汁と、樟脳精を混合した強心剤の大椀を捧げ、西蔵風のアラベスクを金象嵌した極彩色の法皇の寝台へ近づいて行く。法皇は恐怖の叫び声をあげて無益な抵抗をするが、たくましい医官に左右からおさえつけられ、なにも受けつけなくなっている咽喉の奥へむりやりに強心剤を注ぎこまれる。五分後、ダライラマは眼もあてられぬ苦悶のうちに息をひきとった」
耶蘇会士の異色ある「異邦伝道報告書」のなかでも、寛永六年(一六二八)に欧羅巴人として最初にラマ教徒の聖都に足を踏み入れたルイ・ドルヴィルの地理学的な史料は、旅行記としてもすぐれ、キルヘルの「支那図説」の中に収録されているが、海抜一万六千尺という地球の頂上にある冥蒙たる地域に、紀元前三世紀に滅びてしまったニネヴェ古代帝国以来の燦然たる文化の遺業をそのままにたもち、周囲約一マイル、延長三十八マイルの廻廊をめぐらす大宮殿と、二万の学徒を収容する三つの大学があるという、光明の都、拉薩の危険なまでに美しい記述は、読むものを夢心地にさせ、西蔵の周辺で多くの探検