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しんさいゆうき
新西遊記
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页
異邦人がラッサへ潜入すれば、当人のみならず、直接間接に接触したすべての人間に累を及ぼすことを知らせたかったのだろうが、さすがにそこまでの告白をする気はなく、いろいろと想像に及ばないような危険があるのだから、無謀なことはやめにして、ここで西蔵語でも勉強して帰ったらどうかというくらいのところで、とやかくと忠告した。
宗教というものは、自己一身の施捨によって、あくまでも他人の幸福を拡充していくことにほかならない。入蔵の目的もその一点に凝っているのはいうまでもないが、智海という男は、絶えず自分に鞭うって進んで困難にたちむかい、そういう境界で自分の行動を創りだして行く苦行者のタイプだったから、危険とだけでは納得するはずもなかった。チャンドラのお座なりの忠告などは、智海の耳になんのひびきもつたえなかったが、入蔵前に西蔵語を身につけておくことはかねての計画だったので、チャンドラのすすめにしたがって、ダージリンから一里ほど上ったグンパールという僧院に入ることにした。
グンパールは黄教ラマの僧院で、丘陵の思い思いのところに石灰を塗った方形の僧房が建っていた。石門の前の草原に、黄の衣を着たラマ僧が五人ばかり、しゃがむともつかず坐るともつかぬ恰好でうずくまっている。