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しんさいゆうき

新西遊記

久生 十蘭

「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页

青空文庫

なんだと思ったらそれは排便中のポーズなのであった。

チャンドラから話があったのらしく、シャブズンという僧院長が承引して僧房を一つ開け、一カ月五タンガー(約十銭)の学費で西蔵仏典の講義をしてくれることになった。僧房は厚い壁と閂のついた重い扉で仕切られた三坪ばかりの薄暗い部屋で、羊毛の毛氈を敷いた臥牀との焚口がついているだけの簡素なものである。

僧院には五十人ばかりの学侶がいたが、いずれも骨格のたくましい屈強な壮佼ばかりで、お経などはろくに読まず、石投げ、高飛び、棒術など武技の練習に精をだし、なにかというとすぐ草原へ出て決闘をする。いいかげん傷がついたところで、仲裁が入って仲直りの酒を飲むといったようなことばかりやっている。学業はすべて問答で、一人が端坐しているところへ一人が数珠を持って歩みよって来て、手を向い合わせに拡げ、大きな声で「チー・チ・クワ・チョエ・チャン」と絶叫して手を打ちあわせる。文珠菩薩の心、という真言である。問われたほうは「チー・ターワ・チミエ・チャン」とこたえる。宇宙間、如実の真法において論ずという意味で、それから問答がはじまる。