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しんさいゆうき

新西遊記

久生 十蘭

「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页

青空文庫

智海は咫尺も弁ぜぬ砂霧のなかで藻掻きまわっていたが、砂の大波は後から後からうねってきて、あっという間に胸まで埋めてしまった。せめて山羊だけは助けようと抱きよせると、山羊は悲しそうな声で鳴きながら身を寄せてくる。智海は山羊をわが子のように抱きながら念仏をとなえていると、微妙のうちに風が変って、砂嵐が外れて行った。

三日後、ようやくマナサロワール湖のほとりへ出た。カン・リンポ・チェの霊山を対岸に見ながら僧房で夜を明かし、翌日、いよいよ東南ラッサの方へ最初の一歩を踏みだした。

踏附け道を辿ること百五十日、ラッサにつぐシカチェという大きな町を過ぎ、十二月二十七日、ギャトーに着いた。石造の家が多く、風俗も都風で、孤愁にみちた北西原の旅も終りになりかけている感じだった。ムヤツォという人を探して山羊をかえすと、かわりに騾馬を貸してくれた。ゲンバ・ラという山を降りた府関の前で弟が酒店をやっている。仮護照をもらうには区長の保証が要るが、弟は区長だから、それに頼めばよろしくやってくれるという。翌日、騾馬を曳いてギャトーを発ち、五日目に岩山の麓にある大弥勒寺という小寺で泊った。