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しんさいゆうき
新西遊記
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页
この三年にそんな騒ぎがあったことは知らなかったが、なんのためにこんな話をするかと怪訝に思っているところへ、廿四、五の品のいい男が入ってきて、用意ができたというようなことをいった。大臣はうなずいて、「これは和堂という男だが、用があったらなんでも言うがいい」と丁寧に部屋から送りだした。
和堂に連れられて宏大な法皇宮のわきの石段をのぼり、大仏殿の鼓楼の前へ出た。境内の石畳を五十間ほど行き、どっしりした石造の建物のなかへ入った。和堂は六畳ぐらいの小房がいくつもある間を通り、突当りの大きな石の扉を開けた。眼が暗さに馴れるにつれ、五十畳敷ほどもあろうかと思われる仄暗い石室の三方の壁の書棚に、経本と経巻が、黄ばんだ帙と朱塗の軸に古代の薄明を見せて天井まで積みあげられている。一切経はというと、仏の教と語を翻訳した、経部、律部をおさめた「甘珠爾」正蔵千四十四巻、仏の教示を翻訳した論部をおさめた「丹珠爾」続蔵四千五十八巻がそれぞれ経題と奥書がつき、十巻ずつ勅訳の黒印を捺した青い布に包んで左右の棚にいっぱいになっている。
智海が陶然と法悦にひたりこんでいると、和堂が「こちらへ」