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たびだち
旅だち
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,059 字 · 24 页
十畳と八畳とをぶちぬきの広間には、伯父さん伯母さんの外、四五の客人きりでした。そのうちの一番若い人が当の筒井直介であると、敏子は悟りました。ふしぎなことに、お互の紹介は最後までなされませんでした。
あとで、母は言いました。
「あの時の一番若いかたが、筒井さんですよ。どう思いますか。」
敏子はいたずらそうな眼付をしました。
「それは、お母さま無理よ、どうとも思いようがないんですもの。」
答えは、縁談についてでありまして筒井直介その人については、敏子はいろんな発見をしていました。
彼は、人形のようにまとまった人でした。きっちり体に合った背広服を着て、真直を向いて坐っていました。左右に体をねじ向けることはなさそうでした。白い上向な顔立で、額にかすかな一抹の蔭がありました。その蔭が、顔の表情を抑制して、端正なものにしてるようでした。笑う時にも、声から眼色から顔面の動きなどに、きまった限度があるようでした。心臓の鼓動も常に調子がととのってるに違いないようでした。そしてそれらのことが彼の身にぴったり附いていて、彼は決して眉をひそめることもなく、退屈することもなく、穏かな自足の気持ちでいるようでした。